企業向けの視点から、新OS、クライアント側のWindows7と、64ビット専用となったサーバー側のWindows Server 2008 R2について解説する。
それぞれの記事はいつもの日経コンピュータのテイスト。第1章でベンダーと先進ユーザ企業の取組みをインタビュー構成で魅力的に紹介している。ぜひわが社も、と思わせる演出は流石だ。続く第二章でWindows7を、第三章ではWindows Server 2008 R2を詳しく解説。とはいえ、他の入門書のような操作解説書ではない。企業にとっての新技術導入の便益を中心に、ユーザー目線というより多数のユーザーを預かる優良企業のシステム部門へのメッセージとして書かれている。そして最後に、クライアントもサーバーも同時に新OSを導入する相乗効果について解説するという、とてもわかりやすい構成。
徹底解説 Windows 7 & Windows Server 2008 R2 ~「働き方」を進化させる新OSのすべて~(日経BPムック) 日経コンピュータ 日経BP社 2009-10-29 Amazonで詳しく見る |
消費者や小規模企業がWindows7に乗り換えるのに、それほど障壁はない。五月雨式に、壊れたコンピュータをリプレースするときに、Windows7機を買えばいいし、全部一気にWindows7にアップグレードなんて金のかかることを考える必要もない。せいぜい、使う人が新しい使い方を覚えるのがホネ、程度の話だ。そもそもWindowsServerなんて手間と金を食うソフトとマシンを社内に置いてるというのは、それなりの規模をもつ企業だろう。小規模企業なら、Workgroupでクライアント機をシェアすることで、企業内ネットワークは完結する。
一方、サーバーを社内で運用する企業の場合、下手に新製品に飛びつくと互換性でつまづくことになる。企業のシステム部門にとって、新技術導入で目立つことより、安定した運用で問題を起さないことのほうが重要だろう。IT革命進行中とはいっても、それは企業内システムではなく、クラウドとか、ネットワークの向こうの世界で起こっている現象で、いわゆるオンプレミスの世界にこだわる限り、冒険して報われる世界とはかけ離れているだろう。
そういう企業ユーザーがこの本を読んで、すぐにわが社も、そう思うかどうかは疑問だ。Windows7や2008R2でなければ出来ない処理があって、乗り遅れると事業のコンピタンスに深刻な悪影響を与える、なんてものがとりあえず見当たらないからだ。やっぱり当分、XPで、いけるとこまでいこか、そういう経営判断がなされても不思議ではない。
御本家マイクロソフトも、クラウドサービスAzureを提供開始し、サーバーソフトを売るビジネスからクラウドとしてサービスを売る業態へ、シフトというほどでもないにしても、理解を示しつつある。日経コンピュータの優れた解説記事によって、はからずも、すでにここがイノベーションの主戦場ではないことがはっきりと示されたようにも見える。
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