オライリーといえば格調高いコンピュータ専門書の翻訳書が知られているが、そこに日本の著者による魅力的な一冊が加わったことは、同じ日本人として誇らしいことです。

この本は、かなり敷居が高い。日頃パソコンを使う一般ユーザはもとより、現場で手足を動かすサポート技術者がここまで知っている必要があるかといえば、そうでもない。だが、極めて興味深い内容がそこにはある。

医療で喩えるなら、病理の臨床研究の解説書。患者さんは知る必要もないし、興味も無いだろう。街のお医者さんは、その成果をノウハウとして活用する。研究の手法については、あるいはまったく知らなくてもいいかもしれない。そこらへんに精通していることは意味がないわけではないが、付加価値は患者さんとの接し方、直接の治療とは別のメンタルな相談相手としての、癒し、こちらに重心は置かれるだろう。

コンピュータ書だが、実用書ではない。

だとすれば、一般ユーザ様向けの書評コーナーになぜ敢えて掲載するのか。それは、面白いから、その一言に尽きる。これが、ノウハウ書、どういうツールを使ってワンクリックを駆除するか、そんな話なら、紹介しなくてもいいかもしれない。が、この本は、言ってみれば先端技術を垣間見せてくれる著作であり、十分理解できなくとも理解できないなりに、そこで行われているのがどういうプロセスなのか、ということが伝わってくるのである。これ、ダークマターとか超ひも理論とか、ちんぷんかんにもかかわらず血湧き肉踊る宇宙論やら素粒子論等ハードサイエンスの高揚感に通じるところがある。

オライリーなのに薄い、けど、オライリーだけに高い。

ウイルスとかスパイウエアとか、マルウエアを駆除するのが仕事の一部となっている諸兄、そして、どういう仕組みで感染が起こるのかに興味のあるマニアの方に、お勧めします。

Windows7のネットワークを解説する場合、Windows7の機能だけを説明すればいいというわけではない。なにしろ、家庭内だろうと会社内だろうと、WindowsXPのほうがいまだ多数派だったりするのだ。Windows7のホームグループを使えば事足りるというのは、全部Windows7で固めるという好事家のご家庭だけ。だから、真面目にネットワークの説明をはじめると、本はどんどん厚くなる。

本書では、家庭内ネットワークを構築しようとしているユーザも対象にしていると「はじめに」でうたっているが、普通のご家庭にはここまで厚い本は必要無い。小規模企業のネットワーク担当者に、ではこの本がベストかというと、そもそもコンピュータって何、ってなページまで読まされては微妙な気持ちにもなるだろう。初心者向けからセミプロ用まで情報がフラットに混在しているのが、難といえば難だ。

 

だが、それは情報が十分に説明されていることと裏表の関係でもある。他の書籍ではここまで充実させるのは期待できないだろう。5章「WindowsLanを徹底解剖する」の部分だけでも2500円+Taxを払う価値がある。小規模企業でWindows共有がどうもしっくり行かないと感じている担当者には、お勧めだ。

WebサーバーIISやダイナミックDNSを用いたホームページ公開についてもページがさかれているが、これだけでも十分書籍一冊分の情報量のはずで、この本を横に置いとけばすべて解決というわけではない。企業ユーザには中途半端としても、きょうび、自宅サーバーを立ち上げようというマニアックなユーザのとっかかりとしては、いいかもしれない。

本書は『逆引き』で、何をやりたいか、ということから、必要な項目だけ読む形式ではある。が、自分が何を知らないか、知識の網羅性チェックにも役に立つのではないかと思う。本のボリュームに対して価格も手頃な設定ということもあり、一冊買って常備して損は無いだろう。

生き馬の目を抜くIT業界。技術革新が驚異的なスピードで進み、どんなに優れた技術や製品も、その流れに逆らうことはできない。書籍も同様、という本日のお話。

Windows7が登場するタイミングで、XPやVistaから7に移行する手順を解説する書籍が多数出版されたが、出版のタイミングを逃すなとばかり、RC版の画面例や情報を採用した本が大多数であった。そしてWindows7リリースから半年、XPモードでのCPU仮想化機能制約がなくなるなど、些細とは到底言えない変化もあり、そしてインテルCPUのラインアップの一新まであって、半年前の景色がすでにセピア色をおびて見えてくる。

そんななか、RC/betaの象徴でもあった金魚(betta)の図柄を随所に配置した本書の意匠は全く裏目に出ていて、すでにその役割を終えたかのような印象さえ読む人に与えてしまう。

Windows7移行マニュアル (I・O BOOKS) Windows7移行マニュアル (I・O BOOKS)
I O編集部

工学社 2009-11


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しかしその内容は、見かけの派手さに頼らず、中身の充実度で勝負という、その骨太編集方針は好感がもてる。XPモードの説明も詳しい。デュアルブートという実用的でしかし少々煩雑なためそれほど多くは採用されないであろうインストール方法の説明も丁寧であり、2009年10月22日直後の本書出版段階では、間違いなくイチオシ、本書を推薦していただろうことは間違いない。

しかし、今となっては、古さが目立つ。この業界の書籍は鮮度がイノチ。残酷なハナシだが、改訂、というのを考える必要があると思う。

このパソコン書評欄は、MTOS5 (Movable Type Open Source 5) で作成している。

MTOS5はMT5 (Movable Type 5) と「同一人物」ではないが「そっくりさん」と言って間違いない。機能的には、カスタムフィールドという、データベースフィールドを利用者が任意に追加できるという機能が、MTOS5では削られている、というぐらいの違いしかない。

MTOSは無料で、商用利用可能であるのに対し、MT5はライセンスが6万円超からという、小規模企業が使ってみるには少々敷居が高いことは間違いない。が、ウェブサイトが規模的に成長して数百頁に至るあたりで、十分に行き届いた管理が手作業では極めて困難になるとされる。だから、いずれにしても、何らかのCMS (Contents Management System) の導入は念頭において現代のウェブサイトは作られることになる。無料にして高機能のMTOS5はそのCMSとしての利用が期待されていることで間違いない。

ところがこのMTOS5、まだこの1月にメジャーアップグレードされたばかりということもあって、書籍の蓄積が乏しい。だからこそ、下記に紹介するような本格的な解説書が出版されると、まずは飛びつくのが人情なのである。

Movable Type 5実践テクニック Movable Type 5実践テクニック

ソフトバンククリエイティブ 2010-03-26
著者:蒲生トシヒロ,他 / シックス・アパート株式会社

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しかし、世の中はそれほど甘くないのである。

本書にて、自由自在にカスタマイズされたウェブサイト例を見て、わくわくしながらそのサンプルコードをダウンロードし、MTOS5のサイトにインストールした私は、言葉を失った。サイトが破損したのだ。具体的には、デザインを修正しようと「テーマ」というサブメニュー項目をクリックすると、MTOS5はエラーを起こして、それ以上進まない。

原因は、サンプルコードが徹底的にカスタムフィールドを使ったものであり、このカスタムフィールドに対応する部分でことごとくエラーを起こすのである。MTOS5には復元とかアンインストールのような機能が見当たらず、泣く泣く一度MTOS5をアンインストールし、データベースをまっさらにするかと考えたが、とりあえず、MTOS5内の「theme」フォルダに追加されたサブフォルダをどけてみると、なんとかもとどおり使えるようになった。

ということで、MT5のライセンス販売とサポート料金を収入源としているシックスアパート社が作成した本で、MTOS5の使用ををあからさまに勧めるような内容となるわけがないわなと、後から考えればわかるわけだが、それにしても、MTOS5で使うとヤバいよと警告はあってもよかったのではないか。

さらにいえば、この本を熟読したからといって、「テーマ」を自分で作れるようになるわけではない。著者さんから与えられたゴージャスなサンプルをカスタマイズできるようになるだけだ。MT5は何ができるか、この本が教えてくれるので、具体的にどのようにその機能を実現するのかは、他の書籍に譲るか、あるいはMT5のカスタマイズ業者に頼めよ、ということになる。

ということで、この本はMT5のショールーム的存在ではあっても、MT5を自由自在にカスタマイズして使いこなすスキルを紹介するものではない。そこらへん、理解した上で読み始めないと、がっかりしましたとか、時間を無駄にしましたとか、そういう残念な結果となる。

が、MT5のライセンスを買う資金程度は節約する必要もなく、カスタマイズ業者に発注する費用をケチるよりは、Coool!で操作性(特に保守性)に優れたサイトを外注予算をばっちり使って作るほうが目的にかなっているユーザ層には、本書は画期的な必読書といえる。(MTOS5のユーザは、読まなくていい、かもしれない。)

ノウハウ本は面白い。Windowsの標準機能だけ用いるならレパートリーに限りはあるが、フリーソフトの導入でできることが多くなり、レジストリの操作、これはある意味禁断の果実だが、レジストリを操作することでWindowsの挙動を大きく変えることができる。

以下の本は、冒頭にレジストリの基本、バックアップ、復元について説明しており、これが本書の指向性をものがっている。なんでもアリだ。だからこそ、面白い。出たばかりのWindows7は「速い」という評判でこういうテクニックを駆使しなくてもいいはずだが、時間がたてば自分のマシンが遅いと不満に感じるのは人情。だけど、ここまでやるのは、マニアック、というのがむしろ正しい理解かもしれない。

Windows 7高速化&セキュリティ強化テクニック Windows 7高速化&セキュリティ強化テクニック

シーアンドアール研究所 2010-03-25
著者: 持丸 浩二郎

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本書では、フリーソフトのGlary Utilitiesが紹介され、複数の用途で用いられる。そのなかには、「パソコンを利用したすべての痕跡を一括削除する」という、あっと息を呑む内容も含まれている。このフリーソフトを信頼することができる人には、すごく面白い紹介記事になっているが、この手のフリーソフトを生理的に受け付けない層もいるわけで、実は自分もちょっとそういうところがあって、できれば、フリーソフトとしての代替候補を紹介しておいてくれるともっと助かるところではある。

Windows7の5つのエディションのどれで使えるテクニックなのか、記事冒頭にアイコン表示で明記してくれているが、ほとんどは全エディションで使えるもの。うちで導入しているProfesshonal版では、唯一、ドライブ丸ごと暗号化、これが使えなかった。使えないとなると、欲しくなるもんですな。

あなたがそういうテクニックを実際に弄するかどうかはさておき、うちのWindows7でここまでできるもんですか、そういう読み物として面白いので、お勧めします。

Windows7の操作方法については、ネット上に十分な情報が公開されている。なのに、わざわざお金を払って操作方法に関する本を買ってもらうのだから、その本には、わかりやすい、とか、他ではあまり紹介されていない便利な使い方が書かれている、などの付加価値があって然る。

この付加価値には、よく整理されている、体系だって説明されいるから勉強しやすい、という『並べ方の妙』みたいなのも重要な側面であり、そこには『取捨選択』の巧拙があることに間違いはない。『ノウハウ本』という名で十把一絡げにされる専門書と一線を画し、初学者向けコンピュータ書は、いらないものは潔く切り捨てるという、シンプル化の美学にこそ価値が存在する、という場合がある。

Windows 7 システム&ネットワーク 設定マニュアル Windows 7 システム&ネットワーク 設定マニュアル

ソーテック社 2010-02-22
著者: 井上 孝司

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必要不可欠な情報だけ、モノクロの画面例とともに淡々と説明が進むところは、中級者向け。設定マニュアルとうたっているだけあって、ノウハウのような余計なものが含まれない。余計なサービスは停止しましょうと説明し、操作方法は紹介するが、どのサービスが余計なのかはまったく触れず。ストイックだが、若干の不親切さは感じるところだろう。

プロトコルのバインドオーダー変更という、いささか玄人指向なアイテムでは、「どんなときに変更が必要か?」という問いに「通常、この設定を変更する必要はありません。」との見解が回答の冒頭で示されて、ズッコケる。が、それ以外では、オーソドックスなWindows7の操作マニュアルとなっていて、網羅的ですらある。だから逆に、なぜわざわざ「システム&ネットワーク」と断っているのか、意図がいまひとつ読み取れない。

玄人さんがこういう本を買うかはわかりませんが、玄人さん向け。

あえて古いパソコンを使おうと思う人には、おおまかに、以下の2つのどちらかの事情があると思う。

  1. パソコンを買いたいけど手元不如意
  2. パソコンが余りまくっている

通常は(1)のほうであって、(2)のほうはパソコンが趣味あるいはパソコンそのものが商売のネタになっているケースだと考えられる。

ブラウザで調べものしてメール送受信してブログ更新するだけなら、新しいパソコンを買う必然性なんて皆無。だから、買わないという選択肢にはまず確実に経済合理性がある。一番怖いのが突然壊れる、というケースだが、そのために予防保全の策を講じるべきで、新しいパソコンにするというのはその策の一つではあっても、新しいパソコンも壊れる(特に初期故障)事実を踏まえれば、パソコンを新しくするというのはそれほど決定的な策となるわけでもない。

こうした事情から、古いパソコンを使いたおすという命題は、別に吝嗇の話でもまるビの話でもなく、しごく現代的な要求のように聞こえるようになってきたし、WindowsXPに慣れている人口の多さを考えれば、位かに紹介する種類の書籍の価値がさらにタイムリーなものに感じられてくるのだ。

捨てずにとっとけ!売ったら買っとけ!古いパソコンを120%しゃぶりつくす、あの手この手 (わかったブック) 捨てずにとっとけ!売ったら買っとけ!古いパソコンを120%しゃぶりつくす、あの手この手 (わかったブック)

技術評論社 2009-11-05
著者: 唯野 司

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本書はまず、楽しく読める「読み物」としてよくできている。情報だけぶっこんだ「やっつけ仕事」になっていない。古いパソコンを使う経済合理性にかなった様々のテクニックはほぼ網羅された上で、本当に余ってしまったパソコンを使うために、写真表示のインテリアにせよという、ギャグの一種かと疑いたくなるような方策まで紹介されるが、それもご愛嬌と感じられる。

ちょっと長い目で見るのなら、新品のWindows7ノートパソコンが5万円から買える状況では、新品調達がベストの解であって、経済合理性はこの方法で最大化される。ただ、この瞬間を凌ぎたいという近視眼的な事情はあるわけで、その場合に、この1380円+taxはほどよい投資となる。それすら投資しないというのも、あるいは事情によってはさらによい選択かもしれないけど。

古いものは捨てない。その心意気や天晴れでございます。

20万円以上して高かったからもったいない。その気持ちもわかります。

だけど、捨てないで使うのが経済的なのか。業務効率やストレスを考えると、きっと経済的合理性はそこにない。行動経済学的にいう不合理。行動不経済、そう考えるべきかもしれません。

弊方としては、ためらわずにWindows7機に乗り換える好機ですよ、そうご説明させていただきます。

人生いくつになっても、再チャレンジはできる。本人の気の持ちようひとつだと思う。だけど、パソコンを勉強し直しただけで人生が変わるかといえば、今の日本経済の病みっぷりはそんな簡単な状況ということでもなかろう。

引退して、とりあえずパソコンでも、という余裕の『再チャレンジ』なら、総花的でそれほど簡単に読めるわけでもないこの本を哲学書であるかのように少しづつ読み進める道楽もありえるだろうが、にわか仕込みのオタク育成以上の実利は生まないように思える。

ならばむしろ、例えばWord入門などのように、フォーカスを絞ってハンズオンで勉強するほうが楽しく身につくというものだろう。あるいは、余裕のシニア生活にWordもExcelもへったくれもないというなら、本書でも紹介されている『ピカサ』のように、遊びに特化。そういうエンタメ系に尖らせたほうがずっと人生を豊かにするのではないだろうか。さらに言うなら、本当にシニア層に訴求せんとするなら、ネットスーパーに全然触れないというのもありえないと思うし。

一方、本当にパソコンをビジネスの戦力にしたいというなら、この程度の広く浅い知識では到底足りない。実践あるのみ。本を探すより、ネットで必要な情報を貪欲に探すべし。

 

再チャレンジ!やり直しのパソコン 再チャレンジ!やり直しのパソコン

新星出版社 2010-03
トリプルウイン 

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それにしても、本書のタイトルは本当によく考えられている。シニアの方が潜在的に欲しい『商材』を的確に探り当てている。が、読むのはホネとは。マーケティングとコンテンツがミスマッチしているのだ。

バリバリにパソコンを戦力にしている、あなた。そういうあなたに、本書は役に立つ。見落としがちな、パソコン関連動向を漏らさずチェックするには、うってつけだ。『今さら聞けないパソコンの常識』シリーズの本という出自は隠せない。つまらぬ見栄は捨てて、自戒も含め、抜け落ちている知識を速攻補充なう!

就活中だけどパソコン関連に自信のないあなたが、入社面接の前に読む、というのもクールな使い方かもしれない。

 

 

パソコンの引越しは、予算が許すのなら業者に頼んでしまったほうがいい作業だと思う。まず、ルーチンワークだ。時間ばかりかかる。自分ではやりたくない。そうは言っても自分は間違いなく業者の側にいるから、ある種のセールストークと解されてもいたしかたない。

だけど、パソコンのこの手の作業をまずは自分でやってみると決めているお客様は少なくない。そういう高いリテラシーをお持ちの方で、しかし少々不安もあるという場合、こういう懇切丁寧な本が一冊あると、もう、怖いもの無しだろう。画面例の視認性も高く、ガイドブックとしてとてもよく出来ている。

が、手放しでお勧めできないのは、なぜか。

はじめての安全なパソコンのお引っ越し Vista→Windows7 (BASIC MASTER SERIES)

はじめての安全なパソコンのお引っ越し Vista→Windows7 (BASIC MASTER SERIES)

村松 茂

秀和システム 2009-11


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VistaからWindows7というと、同じマシンでのアップグレード、インプレースアップグレードをまずイメージするが、本書ではむしろ、目の前に新機と旧機の2台が並んでいる状況が想定されている。※ 前者は正確にはお引っ越しではない。インプレースアップグレードでは途中でトラブル発生も想定してデータを完全にバックアップして実行という、緊張感伴う作業となりがち。対するに、目の前に2台制的に存在する状況は、限りなく牧歌的。今日はここ、明日はあちら、ステップバイステップでOK。ミスしても、またもう一度正しく繰り返せばいいだけ。趣味とか道楽のひとつとして、じっくり楽しむ、というのも悪くないかもしれない。

さて、ユーザ層の数という意味では、Vista→Windows7よりもXP→Windows7のほうが、圧倒的に和は多いだろう。同じ著者さんがXP→Windows7のほうも書かれている。Amazonで今見たら、やはり売上げ順位はXPからのほうがずっと上位だった。評判のよいWindows7もひと皮剥けば要するにVista Plusみたいなもんだから、まだまださすがにVista機を捨ててというまでの判断をされる方は少数ということだろう。

本当に全部のファイルが移行されたのか、他書であれば、フリーソフトのフォルダ比較ソフトを導入するところだが、本書では画面を並べて目視検査。このほうが初心者には敷居が低くて安心ではあるのだろうけど、はて。

なお、本書では、ありとあらゆるウイルス対策ソフトの紹介が行われ、iTunesやWindowsMediaPlayerで買った音楽の扱いにまで言及する。そうこうして、膨大な時間をかけてきたパソコンのお引っ越しも終りに近づき、本書も大団円を迎える最後の最後になって、「第13章:すべておかませの手軽な引越し方法」が紹介されるのである。

はあ? 

そんな簡単な方法があんなら最初に言ってくれよ!!!!!

って、あなたは怒るかもしれないが、後の祭り。

切れまくってしまったあなたは、巻末おまけの『ハードディスク完全消去』の項に従い、Vista機を中古ショップに叩き売るのであった、というオチになるのかもしれない。

 

未知の用語について知りたい場合、現在であれば、ググる、これが最強の方法であることに間違いは無い。誤りがある可能性は常に示唆されながらも、Wikipediaは技術的な誤りを含む場面にはあまりであった記憶が無い。政治とか文化とか芸能とか、議論沸騰しそうなアイテムなら、偏った書き方と感じることはあるかもしれないが、こと技術に関する限り、記事の鮮度、詳細度、どれをとっても、既存のメディアはネットに太刀打ちできる状況にはない。

なのに、書籍としての用語集なのである。なぜ今、あえて『最新』の『パソコン』と『IT』の用語集を、商業ベースの書籍の形にする必要があるのか。

2010-'11年版 [最新] パソコン・IT用語事典 2010-'11年版 [最新] パソコン・IT用語事典

技術評論社 2010-03-03


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実物をパラパラめくってみて、あなはた気付くだろう。これは辞書として使うより、ある種の教科書、漏れを埋め誤解を正す啓蒙書として価値がある書籍なのだ。

Wikipediaには、パラパラ読む、みたいな機能は無い。本には、そういう『楽しみ方』がある。もっとも1300頁近い本書を最初からめくるのは気が滅入るだろう。だけど、例えば『俺はITのプロだ』と触れ込みで面接を受ける場合、それは入社やら資格の試験ということだが、用語を聞かれて答えられないっていうような残念な結果にはしたくない。だから、短期間で付け焼刃。それも効果があるかもしれない。もっとも、用語を聞くなんてのは、質問者のレベルが知れるってもので、そんな面接者しか出してこない会社や資格試験ってどうなのか、という疑問ももっともなことである。

あと、本書は、図表が綺麗で楽しい。知的娯楽として、今日は『と』で始まる言葉ね、という楽しみ方はあると考える。

辞書としての詳細度・網羅性等について、Google Chrome/AndroidやらWindows7の項目があって、新しい話題はフォローされているが、Hadoopのハの字も出てこない。クラウド関連は概してサラッと冷淡な扱い。本書のタイトルに間違いは無い。パソコン用語集と、IT全般用語集をマージした、いわばTの字型に溶接したような構成。これだけでITのことは何でも知ってますって顔で面接に望むと、例えばサーバ管理者側のことを聞かれて赤っ恥をかくことになるかもしれない。